『東京喰種』と『東京喰種:re』
本作品は、無印とその続編である『:re』の2部構成となっています。
アニメ化されたり、実写映画化されたりするなど、人気作品であることは間違いないです。
個人的には、第1部は文句なしに面白かったと思うので、「この漫画がすごい!」シリーズで取り上げるのは、第1部の無印に限定したいと思います。
しかし、第2部は、戦闘物の作品にありがちな「強さのインフレーション」が起こったために、味方と敵の戦力バランスが崩れ、緊張感がなくなる一方で、過去に数多くの作品が挑戦したものの、満足な結果に至らない「復讐と暴力の連鎖」というテーマを取り扱って、同じ轍を踏んでしまった感があります。
というわけで、無印の『東京喰種(グール)』について解説していきたいと思います。
ここがすごい!その1:善悪の区別が難しい独特の世界観
人間は生きていくために食事をします。
菜食主義者も少なからず存在しますが、この世界の人間の大部分な牛や豚、鳥などの家畜を食べています。
それは、「食物連鎖」と呼ばれる捕食と被捕食の関係の頂点に人間が位置しているからこそ起こる現象です。
ところが、『東京喰種』の世界では、食物連鎖の頂点は、人間を食する喰種(グール)という存在。
人間が家畜を食べるのはOKで、喰種が人間を食べるのはなぜ駄目なのか、という難しい命題が潜んでいます。
また、主人公の金木研は、不慮の(?)事故により、喰種の人体の一部を移植されたことにより、「人間でもあり、喰種でもある」どっちつかずの立場に立つことになります。
喰種であっても、人間と同様に、恋愛したり、家族愛を持ったりするにもかかわらず、「人間に害をなすから」という理由だけで、喰種を駆逐しようとする人間とは何なのかと、これまた難しい命題を突きつけています。
ここがすごい!その2:喰種のタイプとバトルの多様性
人間と喰種との外観の違いを特徴づけるのが、捕食時の赤い目である「赫眼」(かくがん)と、喰種の体内に存在する細胞によって構成される「赫子」(かぐね)。
この赫子は、羽赫、甲赫、鱗赫、そして尾赫と4種類あるのですが、それぞれの赫子の間には優劣関係があります。
すなわち、「羽赫は尾赫に強く、甲赫に弱い。甲赫は羽赫に強く、鱗赫に弱い。鱗赫は甲赫に強く、尾赫に弱い。尾赫は鱗赫に強く、羽赫に弱い」というジャンケンに似た関係です。
本作品は、人間vs.喰種だけでなく、喰種同士のバトルも多々あって、見所となっているのですが、それが単なる能力の個体値で左右されるのではなく、赫子の属性と相性も大事というゲーム的要素も含んでいます。
途中からは、個体値の強さも、「AA」や「SSS」などと表示されるようになりましたが、物語が進むにつれて、インフレーションを起こしたのは、先述のとおり。
ここがすごい!その3:謎が謎を呼ぶ、緻密なストーリー
喰種の内臓を移植した結果、金木君は、人間と喰種の両方の世界に跨る存在となって、物語が進むわけですが、その事故(事件)は単なる偶然ではなく、何者かによって引き起こされたものであることが仄めかされます。
その真相を追う過程で、次から次に以下のような謎が浮上してきます。
- 移植手術をした嘉納教授の目的は?
- 喰種の天敵である戦闘集団「白鳩」を送り込む喰種対策局(CCG)とは?
- 金木君が喰種になるきっかけとなった「神代利世」とは?
- 喰種の王たる「隻眼の王」とは?
- 凶悪な喰種の集団である「アオギリの樹」とは?
- 金木君を引き取った喫茶店「あんていく」と芳村店長の真意は?
- CCGから恐れられている凶悪な喰種「隻眼の梟」とは?
これらの謎については、無印で全てが解決するわけではありませんが、続編の『:re』において、伏線の全てを回収し終えます。
ただし、「なぜ喰種は誕生したのか?」という根本的な謎については、本作品の世界観では「なぜ人間が誕生したのか?」と同様の命題になるため、解答らしい解答は用意されていませんので、あしからず。
圧巻の対「隻眼の梟」戦
無印ではラスボス戦となる、最強の喰種と恐れられる「隻眼の梟」とCCG戦闘員による総力戦、そして、その後に続く最強の戦闘員として名高い「有馬貴将」との一騎打ちが最高の見所です。
息を呑むような次から次のバトル展開に夢中となり、それゆえに、続編の『:re』にも期待したのですが、どうしても無印のラスボス戦を超える展開に遭遇できませんでした。
言い換えてみれば、『SLAM DUNK』の山王工業戦後の試合を書くようなものであり、筆者にとっては、無印の「隻眼の梟」戦こそがベスト・バウトであり、そこを超えるつもりがなかったのかなあと勝手に自己解釈しています。
無印は間違いなく面白いし、続編の『:re』もきちんと伏線を回収して、広げた風呂敷はきちんと折り畳めた作品だと思います。
レビュー評価:
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