マキアヴェッリ先生言行録
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03 Book Review(書評)

この漫画がすごい!:カガノミハチ『アド・アストラ』(連載終了)

ローマとカルタゴとの覇権戦争の醍醐味

イタリア半島の諸部族を統合し、南イタリアに拠点を構えるギリシア人も屈服させて、イタリア半島を勢力下に置いた都市国家ローマ。

ローマの次なる標的は、地中海に浮かぶシチリア島に定められますが、ここには先進的な文明を築いたギリシア民族だけでなく、当時、地中海全体で交易を営み、繁栄の時代を謳歌していたフェニキア人の都市国家・カルタゴが立ち塞がります。

カルタゴの歴史については、過去記事「栗田伸子・佐藤育子[2009]『通商国家カルタゴ』」を参照いただきたいと思いますが、ローマは、経済力では圧倒的に不利ではありましたが、最終的には国力で勝ることができ、カルタゴを滅ぼすことに成功します。

ただ、これだけの歴史的事実であれば、世界史上で見られるありふれたエピソードに過ぎないのですが、この覇権戦争=ポエニ戦争が世界史、特に、戦術史において注目されるのは、歴史上めったに見られない「常勝の天才と不敗の名将」という、並ぶことなき英雄が戦場で相見えた点にあると思います。

 

ここから先はネタバレを含みます

ここがすごい!その1:ローマの心胆を寒からしめたハンニバル

ポエニ戦争が繰り広げられた紀元前3世紀におけるミリタリー・バランスを俯瞰してみると、戦争時に傭兵を使って、指揮系統も統一されないまま、無秩序な突撃攻撃という戦術を多くの国が採用する中で、自国民中心の兵士が主体で、統率の取れた軍事行動を展開し、時には、大規模な土木工事による宿営地設営を行うローマ軍団は特異な存在でもありました。

「機械のように」という比喩で表現されるような緻密な軍事行動によって、1個軍団当たり約9000人の軍団を、数個軍団同時に戦線へ派遣できる国力を有する都市国家は、西ヨーロッパにはなかったため、ローマは、ある意味「軍事国家」としての側面も強く持っていました。

専制君主の下で、十万人を越える軍隊を動員できた国家もありましたが、オリエント地方での内部抗争を繰り広げていたため、西側で成長しつつあったローマはお目こぼしされる、という幸運にも恵まれていました。

このように、他国を圧倒する軍事力を行使しながら、領土を徐々に拡大しつつあったローマに対して、痛恨の一撃を加えたのが、カルタゴに誕生した戦術の天才であるハンニバルです。

ハンニバルを名前を高名にしたのは、約5万人の兵士と戦象30頭とともに、冬のアルプスを越えるという前人未到の奇襲作戦を実施した「アルプス越え」ですが、戦術論的に見れば、主戦力の非戦力化による包囲殲滅作戦の鮮やかさが評価されています。

何しろ、ハンニバルは、後ほど紹介するスキピオが登場するまで、ローマ軍団に対して、ほぼ全戦全勝。

ハンニバルに大敗を繰り返すローマ軍団が、「勝てないならば、負けないように」ということで、ゲリラ戦や持久戦に方針転換した後も、ローマ軍団の心理を突いて手痛い打撃を与えるなど、ローマ人からすれば、悪夢としか思えなかったと思います。

しかし、逆の立場に立ってみれば、ざっと挙げるだけで、ティッチーノの戦い、トレッビアの戦い、トラジメーノ湖の戦い、カンナエの戦いと殲滅に近い大勝を実現したにもかかわらず、白旗を上げることなく、次々に戦意の高い軍団を送り出してくるローマの方が、ハンニバルにとっては不気味に映ったに違いありません。

結局は、鮮やかな戦術的勝利を次々と積み重ねながらも、ローマの国力を体現する「ローマ連合」の解体という戦略目標に達し得なかったために、ハンニバルは徐々に戦術的後退を続けていきます。

 

ここがすごい!その2:「もうひとりの天才」スキピオ

「どれほどの天才であっても、戦争を一人で勝ち抜くことはできない。」

この言葉通り、ハンニバルにとってのアキレス腱は、彼の本国カルタゴが国内産業重視派に牛耳られており、カルタゴ本国からの支援を受けられず、ハンニバルが統治する植民地からの支援・補給によって軍隊行動を維持していたこと。

ハンニバルにとっての生命線とも言えたヒスパニアだったからこそ、その守りは信頼できる弟・ハスドゥルバルに託しました。

ハスドゥルバルは凡将ではなく、ハンニバル不在のヒスパニアを良く統治したのですが、起死回生の一手として送り込まれたローマの若き将軍・スキピオの才幹には及ばず、ハンニバル軍は補給基地を失うことになります。

そして、ひとたび主導権を握ったスキピオは、その主導権を確固たるものにするため、イタリア侵攻したハンニバルに対するお返しとばかりに、本国カルタゴのある北アフリカ侵攻を開始します。

このように、攻守逆転し、両雄相見えたのが「ザマの戦い」です。

 

ここがすごい!その3:師弟、それとも、ライバル?

直接、面談するに至ったハンニバルとスキピオですが、この二人の関係性が興味深いです。

スキピオの戦術は、ハンニバルから多くを学んだこともあり、憎き敵というよりも、まるで敬愛する師匠に相対するかのようです。

一方のハンニバルは、自軍の不利を認識しながらも、それをおくびにも出さず、若きスキピオの血気盛んな言葉を余裕で受け止めます。

お互いの才能を認め合う天才同士だからこそ、醜い誹謗中傷の言い合いではなく、紛争の解決手段としての「戦争による決着」を受け入れるという潔さがあります。

言い方は不適切かもしれませんが、この両者の間には、爽やかなスポーツマンシップさえ感じられる部分もあります。

冒頭に書いたように、ローマとカルタゴのポエニ戦争は、ローマの勝利、そしてカルタゴの消滅という結末に至ります。

長い歴史を持つ国家が亡国の憂き目に遭うという悲惨な結末ではありますが、そこに至った戦争を丁寧に追った本作品からは、学ぶべき点が多いと考えます。

 

レビュー評価:

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マキアヴェッリ先生
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