マキアヴェッリ先生言行録
Openness, Fairness, and Transparency
03 BOOK

この漫画がすごい!:幸村誠『ヴィンランド・サガ』(連載中)

どんな話?

11世紀当時、北欧をはじめヨーロッパ中を席巻していたヴァイキングの生き様を描いた作品です。

主人公のトルフィンは、ヴァイキングの英雄である父トールズが、不遇な死に追いやられたことに怒りを燃やし、復讐のための刃を研ぎます。

しかし、その復讐を遂げる過程で、無意味な命のやり取りや、理不尽な境遇に苦しむ人々を多く目の当たりにすることで、トールズの「お前に敵などいない。誰にも敵などいないんだ。傷つけてよい者などどこにもいない。本当の戦士には剣など要らぬ。」という教えが脳裏に蘇ります。

殺し合いの連鎖の中で生きてきたこと、未だそこから抜け切れていないことを悟ったトルフィンは、暴力との完全な決別を誓い、たくさんの人を殺した後悔を背負いながら、「戦争も奴隷もない平和な国」を作ることを目指します。

 

ここがすごい!その1:実在の歴史人物が登場

主人公のトルフィンは11世紀に実在したと言われるアイスランド商人ソルフィン・ソルザルソンをモデルにしているほか、デンマーク王・スヴェンやイングランド王も兼ねたクヌートなど、歴史上の実在人物を登場させて、フィクションとして物語を展開しています。

ヴァイキングがヨーロッパ中に拡散し、侵略を進め、王国を築くという世界史におけるインパクトは、「ノルマン・コンクェスト」(ノルマン人による征服)というイングランド王国の誕生が代表例のように扱われますが、フランスにはノルマンディー公国、イタリアにはシチリア王国が創設されました。

これらのノルマン人の動きは、世界史において時折見られる、民族大移動(フン族、モンゴル族など)とその後の世界秩序の転換に勝るとも劣らない歴史的事象なので、日本人に馴染みの薄い北欧史を理解する手始めの作品としてお薦めします。

 

ここがすごい!その2:ヴァイキングの無法ぶりが怖い

戦闘シーンや虐殺シーンがかなりエグいです。

我々は「オーディーン」や「ヴァルキリー」などの名称には馴染みがあるものの、内容はあまり深く理解していないのが北欧神話。

ノルマン人の信仰対象であった北欧神話が、実は、彼らの行動原理と密接な関係性があることが描かれています。

すなわち、ヴァイキングは、勇敢に戦って死を迎えることではじめて天国(ヴァルハラ)へ行けるという、極端な戦闘に対する信仰があるため、戦争・暴力・略奪は日常茶飯事で、これらに徹することのできない戦士は、もはや臆病者、役立たず扱い。

そのため、戦争や略奪の描写はどうしても凄惨なものにならざるを得ません。

当時の西欧は、キリスト教(カトリック)が民衆の間にも広く深く浸透し、平和に生きるよう飼い慣らされた状態であったところ、そこに、突如として戦争・暴力・略奪を行う悪鬼のようなヴァイキングが来襲したわけで、その絶望感は推して知るべしです。

 

ここがすごい!その3:トルフィンの成長物語

復讐に駆られたまま成長したトルフィンは、父トールズを殺害したアシェラッドが目の前で殺されるのを見て、復讐の目的を見失い、茫然自失の廃人状態となります。

奴隷身分まで落ちて、黙々と農地の開墾作業を続ける日々を送る中で、人々との交流や触れ合いを経て、徐々に生きることの意味を見直していきます。

そして、農場の接収のため軍隊を派遣してきたクヌート王と命懸けの再会を果たし、「戦争のない平和の国」という実現という理想を語り合うことで、クヌート王による接収を断念させます。

闘うことしか知らなかったトルフィンが、闘いによらず虚心坦懐にクヌート王に向かい合い、説得するまでに成長を果たします。

 

まだまだ続くトルフィンの物語

「贖罪」をテーマにした作品は多々ありますが、やはり主人公の葛藤や矛盾をどこまで描き切れるかで、作品の価値が大きく変わります。

本作品の場合は、トルフィンの内面の成長も重要ですが、戦争のない平和な国(ヴィンランド)に無事に辿り着くのも、本作品における重要なミッション。

このミッションの実現を目指す一方で、他人を傷付けないことも誓ったトルフィンが、内心の葛藤や矛盾を如何に乗り越えていくのか、という点に引き続き注目したいと思います。

 

評価レビュー:

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マキアヴェッリ先生
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