マキアヴェッリ先生の研究室
Openness, Fairness, and Transparency
01 Regional Revitalization(地域創生)

地域未来会議とデザイン思考

一時期流行していた、いわゆる「地域未来会議」と称される地域住民向けのワークショップに対して、強い違和感を覚えていました。

地域の将来を、地域住民自らが考える「住民自治」の活動であり、その正当性や大義は否定しようがないものの、ワークショップの講師を何度か打診されたにもかかわらず、私自らが積極的に関わることには気乗りしませんでした。

その違和感の理由について、ようやく腹落ち感のある理解ができたのは、こちらの記事を読んでから。

世界を変えるはずだった「デザイン思考」とは何だったのか?

企業や自治体から一時注目を浴びた「デザイン思考」の輝きは近年、失われつつある。組織内での「イノベーション劇場」が常態化し、多くの課題が大量の付箋では解決困難であることが明らかになった今、デザイン思考のアプローチにもイノベーションが求められている。

“MIT Tech Review,2023.4.7)

かつて多く実施された地域の未来会議はその後どうなっているのでしょうか。

私から見たら、会議の開催そのものが目的化していて、地域課題の解決に至ってないと思えるし、地域やコミュニティの外からやって来た講師も、デザイン思考に基づく手法やプロセスを華々しく披露するだけで、住民の利害が複雑に絡んだ問題には手を付けてこなかったように思えます。

「実現」は、デザイン思考にとって常に厄介な問題だ。体系化された6段階からなる手法の説明の中には、重要な最終段階の実装が省略されている場合もある。コンサルティング企業はそのルーツからして、決められた予算で、決められたスケジュールをこなし、試行段階の前後で手を引く。デザイン思考は製品開発の開始を目指すものであり、その結論やさらにその余波には目を向けたものではない。

 

新規事業開発という現在の仕事を経験してわかったのは、アイディアを生み出し、社内外の合意を形成し、商品化するまでもそれなりに苦労はあるのですが、それを社会や地域の課題の解決に資するソリューションとし、「社会実装」に至るまでには、更なる難関が待ち構えているということです。

異分野・異業種間でのブレーンストーミングは大いに盛り上がり、膨大な「付箋」を生み出し、ホワイトボード上に無数のアイディアを書き出したとしても、それらをプロジェクト化し、実現に向けたマネジメントをする担い手や、解決のための技術や資金を確保できずに、結局のところ「絵に描いた餅」に終わっている事例がほとんどではないでしょうか。

足りないのは「中長期的なビジョンと覚悟」(=コミットメント)です。

地域の課題を解決し、地域創生を図るというのは、仲間内のサークル活動の延長線上にある賑やかしではないのです。

そんなノリで解決できるほど、地域の課題は簡単ではないし、私が「地域創生」をライフワークとして向き合い始めた15年前から比較すると、更に課題は複雑化・深刻化しています。

地域イベントを成功させたくらいの水準で大々的なプロジェクトをマネジメントできると勘違いしている人が増えているし、そういう人たちを行政やメディアがもて囃し(甘やかし)、地域の未来を議論するという大事なワークショップを任せた結果、残ったのは実現性の欠片もない夢の跡という現在に至っています。

地域創生の実績や効果を定性的に語るのではなく、KGIやKPIに基づく定量的評価を行うことを行政や住民が学んでいかないと、同じ過ちはこれからも繰り返されると思います。

 

ABOUT ME
マキアヴェッリ先生
フィールドサイエンティスト。 地方自治体、航空会社、デジタル企業とキャリアを重ねながら、地域課題・社会課題の解決につながるプロジェクトのマネジメントを推進中。 #PPP #PFI #価値共創 #地域創生 #カーボンニュートラル #サステナブル経営 #パーパス経営 #EBPM #ソーシャル・イノベーション