新年度に入り、年度初めの御挨拶ということで、各自治体の関係者と多数コミュニケーションを取っております。
その中で、自然と話題が出るのが、Go To Travel事業の再開。
各地域の観光産業振興政策の切り札であるかのようにポジティブに話されているのですが、コロナ禍においても、北は北海道から南は沖縄まで全国各地を訪問する中で、自ら移動し、現地をつぶさに観察する中では、Go To Travel事業は観光需要の最適均衡を政策的に歪める悪手であるというのが私の見解です。
コロナ禍により観光需要は「蒸発した」と一般的には理解されていましたが、他方で、ペントアップ(=pent-up)需要として、消費者の中に潜在的に蓄積され、解放されるのを待っているという見方もありました。
私は、後者の立場に立っていたので、2021年9月〜11月に全国的な緊急事態宣言が解除された後の急激な観光需要の増加も、Go To Travel事業の後押しではなく、このペントアップ需要の効果と見立てていました。
実際に、年明けから開始され、3月まで続いた全国的なまん延防止等重点措置の適用中も、ペントアップ需要が溢れたかのように、人気デスティネーション向けの観光需要は相当程度にありました(もちろん、例年を100%としたら60−70%程度なんでしょうが)。
むしろ、Go To Travel事業は、「お得感」を感じる遠距離の人気デスティネーションへの三大都市圏観光客の集中(北海道と沖縄)を招いたし、そうでない観光地も、周辺地域からの観光客増加に伴う宿泊施設の便乗値上げもあり、儲かったのは宿泊施設だけという不公平な結果になったのではないか、というのが私の見立て。
観光客であれば、地元住民だろうと、遠隔地である三大都市圏観光客であろうと、同じ効果であろうというのは間違いで、地元住民が中心になると、移動はマイカーとなり、お土産購入も限定的となり、更に、1泊2日の日程で食事回数も少なくなることから、当然のことながら観光消費額は「地元住民<三大都市圏観光客」ということになります。
なので、地域観光産業にとっては、三大都市圏観光客をどれだけ呼び込むかが肝で、そこを「地域住民による地域内での観光促進から段階的に地域を広げていくアプローチ」というのは、正直言って、意味不明です。
オミクロン変異株の全国的な流行でわかったのは、
- 変異株の感染力の強さの前には都市圏住民と地域住民との間の感染リスクは大差ない
- 基本的な感染対策を講じれば一定程度感染は防げる
- 感染したとしても重症化・死亡する確率は極めて低い
ということです。
実際に、全国各地の地域での感染者数は、最近でも過去最高を更新している地域が多数ありますが、それでも住民割を実行(強行)している状況です。
地域住民間の感染は良くて、都市圏住民が持ち込む感染リスクはダメというロジックが、私には全く理解できないのですが、これを説明できる自治体関係者には是非御説明をいただきたいところ。
また、Go To Travel事業(その前提としての住民割)の負の政策効果として、以下のようなものがあり、もうGo To Travel事業は賞味期限切れなのではないでしょうか。
- 期間限定の集中豪雨的な需要創出により、生産体制(宿泊施設やレンタカーなど)が不足し、価格が高騰する
- また、キャンペーン時期のみ需要が盛り上がるため、需要の平準化からは程遠く、キャンペーン終了後の大幅落ち込みが懸念される
- 対象を限定した補助金により市場価格が歪められ、便乗値上げや対象外となった観光客(三大都市圏観光客)のコスト負担増につながる(補助金対象者は負担を感じないが、そうでない人は負担感・不公平感を覚える)
- お得なキャンペーンが先にあると考えると、お得感を求めて、決断を先送りし、旅行を控えるようにする
既にペントアップ需要で、観光・旅行に対する潜在的需要は十分蓄積されていて、後は、自然回復を待てば良いだけというのが私の体感なのですが、そこに対して補助金投入による追加的・人為的な人流を創出しなければならない合理的理由は存在しないと考えます。
それよりは、前回の投稿記事に書いたような、観光客受入の重要なインフラとなる地域公共交通機関の維持や利用促進のための補助金を投入することで、需給関係のマッチングや観光施設等の安全点検・対策を行うことの方が優先順位は高いと考えます。