「転職をする」ということは、転職によって得られるものと、それによって失われるものとの比較衡量により決定されると一般的に言われます。
私の場合は、比較衡量をする前に、直感的に「行くべきなんだろうな(転職すべきだな)」という思いが去来し、先に「転職する」という決断があったため、今更ながら比較衡量を始めました。
実は、過去に2度、転職の機会がありました。
ひとつは30代前半の某欧米系クルーズ船社が、日本支社を立ち上げるというタイミングで支社長(マネージャー職)としてお誘いがありました。
もうひとつは九州最大の食品卸売業者が海外輸出室を立ち上げるというタイミングで同じく室長(マネージャー職)としてのお誘いがありました。
いずれのタイミングも、結婚や育児というプライベートの事情があったこともさりながら、小役人としてのキャリアに満足していた面もあり、それ以上に話は発展しませんでした。
では、今回、転職を決断した理由は何なのか。
それが自分が転職によって得ようとしたものなのですが、一言で言えば「自分の可能性」です。
転職を決めた会社は、設立されてからまだ10年にも満たないにもかかわらず、短期間で急成長を果たしているのですが、組織内のマネジメントはもとより、事業展開の可能性も大きく揺らいでいます。
そのような大きな揺らぎがあるからこそ、自分の知識や経験、スキルに人脈などを投入することで、組織はもちろん、自分自身の中にも化学反応を起こし、イノベーションを追求していきたいという気持ちが、日に日に強くなっていきました。
地方公務員として20年働いた経験を踏まえれば、組織が大きくなればなるほど、大きなプロジェクトとその成果を期待できますが、そこに到達するまでには、調整の上に調整を重ねるという、膨大な時間と労力をかける必要がありました。
それが官僚主義というものであり、それは容易に変わっていかないものであろうし、それを変えていくというミッションは私の人生の選択肢には入っていません。
私のキャリアの目的は一貫として、「鹿児島を盛り上げ、そこに貢献する」ことにあり、それを実現できそうな手段が「鹿児島県職員」というポジションに過ぎなかったわけで、それが、他のポジションで実現できるのであれば、鹿児島県職員というポジションにこだわる必要はないわけです。
新しい仕事では、鹿児島以外の地域も担当することになりますが、それも鹿児島の良し悪しを相対化する上で、大事なことだと考えています。
「地域間競争」という言葉がよく使われますが、地域間競争に優位に立つことができる戦略を構築するためには、やはり他地域の戦略やアプローチをしっかりと分析する必要があります。
鹿児島県職員という立場にいる以上は、どうしても絶対的(あるいは相対的優位)な視点で、鹿児島のことを見ざるを得ない面がありましたが、そこから一度離れて、客観的かつ相対的に鹿児島のことを見てみたいという思いもありました。
言い換えるならば、責任感や義務感から離れたところで、もう一度鹿児島を眺めてみることで、鹿児島のポテンシャルの再発見と、そこに私自身が関与できる余地を探求してみたいという「自由」こそが、私が欲してやまなかったものだと気付きました。