マキアヴェッリ先生の研究室
Openness, Fairness, and Transparency
04 Lifehack(仕事術・人生術)

スペシャリスト型とオールラウンダー型

プロフェッショナルなマーケターとの出逢い

先日、大手IT企業を多数渡り歩いてきたプロフェッショナルなマーケターの方と懇談する機会がありました。

これまでの人生の中で、「マーケター」と称する方との遭遇がほとんどなかったので、がっつり2時間近く懇談できたことは貴重な経験でした。

私も、これまでのキャリアの中で、マーケティングについては人並み以上に学習してきたつもりでしたが、企業間競争における最前線のマーケティングの現場では、私の知識水準よりも5歩も10歩も先を行っていることがわかりました。

それで、これから気合いを入れて、マーケティングを勉強し直して、マーケターの末席を汚すくらいの水準は確保したいと思っていた矢先に、その方がマーケター(マーケティング職)にはスペシャリスト型オールラウンダー型があると書いていたため、自分のポジショニングについて考えてみました。

 

マーケターとは何か

そもそもマーケターとは、すなわち、「マーケティング活動をしている人(職種)」のことです。

マーケティングの定義については、マーケティングの大家コトラーの言葉を借りれば、次のようになります。

「どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げること。」

要は、人間や社会のニーズを見極めて、商品の開発から顧客への引き渡しまでの全て過程に関わる商品を売る仕組みづくりを主導しているのが、マーケターという存在です。

 

マーケターに求められる能力

このマーケターに求められるスキルとしては、主に次の3点が挙げられます。

  1. 市場洞察力:市場の動向や変化を捉えるために必要なデータ収集や調査を行い、そこから得られる情報を分析フレームワークに当てはめたり、データ分析ツールを活用したりしながら、正しい分析を行えるスキル
  2. ユーザー理解力:マーケティングの本質は人間や社会のニーズを把握し、ウォンツに訴えることであり、そのためには人間あるいは社会そのものを理解することが重要。そのために、様々な人々とコミュニケーションを取り、あるいは、多くの事物を通じて、人間やその営みについての理解できるスキル
  3. 仮説構築力:①と②を踏まえて、様々なアプローチによって生み出されるアウトプットを予測しながら、そのメリット・デメリットなどを整理しながら、新たな付加価値を創出できる可能性を論理的に説明できるスキル

人間や社会のニーズなどは、その時々の状況によって刻々と変化するため、その一瞬だけを切り取るのではなく、一定期間(中長期)のトレンドを的確に見据える必要があり、そのためには表層的な現象ではなく、起きている変化の本質を見極める能力が不可欠です。

 

マーケターの2類型

前置きが長くなりましたが、上記に掲げたような仕事をしているマーケターは、どうやら大きく2種類に分かれるようです。

  1. スペシャリスト型:定型・非定型なデータを構造化して、そこにマーケットと顧客のインサイトを組み合わせてマクロとミクロの両側面から現象を説明したり、それを徹底的にオペレーションに落とし込める
  2. オールラウンダー型:定性・定量のデータとインサイトとそもそものブランドの方向性に基づいて、自身の観察力と嗅覚でマーケティング活動全体の方向性、あるいは顧客セグメント単位でのアプローチやコンテクストがチャネル施策も含めて設計できる

私に様々な助言や示唆を与えてくれたプロフェッショナル・マーケターの方は、その方が書かれたブログ記事の内容を拝見する限りでは、データ収集を丁寧に行い、分析についても緻密に行っているし、懇談会の中では、データドリブンマーケティング(販売実績や顧客情報などのデータを総合的に分析し、意思決定や企画立案に役立てるマーケティング手法)の片鱗を語ってくれたので、その観点からはスペシャリスト型ではないかと見立てています。

他方の、私は、論文や雑誌、あるいは、公表データなどのサーベイは徹底的にしますが、それらを一気読みして、自分なりのアウトラインを構築した後は、現場に赴き、ヒアリングやファクトの積み重ねを通じた試行錯誤を繰り返しながら、一定のアプローチに収斂させるという手法で、明らかにオールラウンダー型に近いと言えます。

私自身は、決してデータを軽視しているわけではないのですが、重視もしてこなかったのが、これまでのキャリア。

というのは、データなんていうものは、その調査手法によって、大きく変わるもので、調査主体の意図次第では、その意向に沿って、都合の良い形に作り出せるもの、という見方(偏見)をしていたから。

とは言え、世間では、ITを駆使して、余計な意図や思惑が反映される前の、膨大な生データ(ビッグデータ)に如何にアクセスし、それらの活用をめぐって激しい競争が行われている現実があります。

その現実を前にして、私個人が長年にわたり積み上げてきたアプローチに固執するなんてのは無意味だし、やはりマーケターとしての最低限の情報リテラシーは習得する必要があるかと。

ただし、データからは得られない、「生の人間」から得られる生データについては、これまで培ってきた対人間コミュニケーション力を活かしながら、巧みに収集・分析を行って、定量的データ分析の比重を上げつつも、確度の高い分析を実現するという観点から、定性的情報についても、引き続き、丁寧な収集・分析に努めていく、ということでしょうか。

 

スペシャリスト型とオールラウンダー型とのシナジー

漫画『キングダム』では、戦場で多くの戦術を駆使しながら指揮する武将を「知略型」とし、戦場で起きる変化を肌で感じながら、本能の赴くまま指揮を行う武将を「本能型」と分類しています。

知略型と本能型が戦場で相見えた時に、勝者は一人という状況で、知略型と本能型のぶつかり合いが見物の同作品ではありますが、現実の社会では、常に争ってばかりではないということ。

お話を聞かせていただいたプロフェッショナル・マーケターの方も、スペシャリスト型とオールラウンダー型が並存し、その上に、この両者をきちんと指揮できる人が存在し、トライアングルのマーケティング組織となることが、理想の状態ではないかと考えている節があります。

私自身も、元々、オールラウンダー型だったのに、今更、生粋のスペシャリスト型になるなんて器用な真似はできないので、標準以上のデータ・リテラシーを習得の上、ワンランク上のオールラウンダー型を目指します。

ただ、この2つを実現しようとすると、細かく機能分化した組織であるほど「組織の垣根を跨いでしまう」、「内製(インハウス)と外注(アウトソース) の垣根を跨ぐ」状態になるのではないかな、と思います。

これら二つのマーケターの上に立つのがいわゆるディレクションを担う役割の人ですが、二種類の型をオーケストレーションしてマネタイズする能力が必須となります。こうしたトライアングルのマーケティング組織が機能するんじゃないかな、と、ここ最近の流れの中で感じています。

 

まとめ:鹿児島のどこにマーケターがいる?

プロフェッショナル・マーケターの方との懇談は、自分にとって刺激的で、2時間の話から、今回のような3000字以上の記事を書くテンションに引き上げてくれました。

やはり自分にとって、データドリブンマーケティングなどは、新聞や雑誌などから既知ではあったものの、その実態や運用については未知のものであった、という側面が強かったからと言えます。

逆に言えば、この手の類の話を鹿児島ですることがなかったんだなあと。

都市圏の企業と比較すると、地方の企業は、どうしてもマーケット規模が小さくなるし、また、組織規模も小さくなるため、マーケターという職種をわざわざ設ける必要はない、ということかもしれません。

しかし、これからの時代は、「情報が金を生む」時代になる見込みが高いため、やはりデータをはじめとした情報リテラシーに感度の高い人材を育成していかないと、付加価値の高い部分は都市圏の企業にかっ攫われて、低付加価値部分を下請け的に引き受けることとなる、今と変わらない、都市圏の市場に従属した経済体制が続くことになるのではないでしょうか。

ABOUT ME
マキアヴェッリ先生
フィールドサイエンティスト。 地方自治体、航空会社、デジタル企業とキャリアを重ねながら、地域課題・社会課題の解決につながるプロジェクトのマネジメントを推進中。 #PPP #PFI #価値共創 #地域創生 #カーボンニュートラル #サステナブル経営 #パーパス経営 #EBPM #ソーシャル・イノベーション