航空業界の競争構図
他業界の話でありながら、読んでいて、生産性と付加価値という、マーケティングを考える上で欠かせない重要な要素に関する記事がありました。
『目黒の星付きイタリアンのオーナーシェフは、サイゼリヤでバイトしながら2億年先の地球を思う』
ANAやJALに代表されるFSC(Full Service Carrier)が、高サービスを追求するが故に、高価格になっているのに対して、「サービス水準を見直すことにより、そこにかかっていた余計なコストを削減して、リーズナブルな料金で輸送手段を提供する」というビジネスモデルを確立したのがLCC(Low Cost Carrier)。
この、サービス水準の見直しという部分は、『ブルーオーシャン戦略』で書かれたサウスウエスト航空の戦略キャンバスで説明されていることは周知の事実です。
要するに、FSCと異なるサービスを追求し、低コスト経営を実現し、その結果として、低価格となっているのがLCCということになります。
低価格も付加価値
この航空業界の競争構図が、航空業界だけに留まらず、飲食業界にも当てはまると感じさせてくれたのが、冒頭に御紹介した記事です。
星付きレストランのオーナーシェフが、レストランチェーンであるサイゼリヤにおいて、今後の生き残りをかけたノウハウを学ぶためにアルバイトをしている話で、「付加価値とは何か」「生産性を引き上げるとはどういうことか」について、多くの示唆を与えてくれる記事となっています。
まずはサイゼリヤが実施しているコスト削減策について。
ここらへんはPeach Aviationの井上社長が書いた『Peachのやりくり』にも通ずる、コスト削減が徹底されていることを確認できます。
サイゼリヤの僕の働いてる店は1日お客さんが800人、それを料理人2人とホールはシフトで大体5.5人でまわしています。その他も、店の構造から原価から何から0.1円単位でコスト削減が考えられてるんですよ。
そして、個人的に「目から鱗が落ちる」ような話だったのは、「心地よい時間・空間」という付加価値に対して、「安さ」を付加価値としたこと。
マーケティングの教科書的に言えば、付加価値と価格は別個のものと考えられ、「付加価値に応じて価格を設定する」ということがセオリーとされます。
しかし、このオーナーシェフは、「安さ」も付加価値であり、それこそが顧客の求めている価値のひとつと明言しています。
日本では「安い」ということは、えてして「安かろう悪かろう」のイメージで、ブランディングの観点からは忌避されがちなのですが、徹底したコスト削減による顧客還元の仕組みこそが、顧客の維持率を引き上げ、ひいては安定的な経営を可能にすると主張しています。
薄利多売チェーンとガストロノミー店。違うようですが、まったく一緒なんですよ、構造が。利益を出さないと、お店を続けることはできません。そのためには生産性を上げなくてはいけないのです。
一方で違うのは、付加価値です。サイゼリヤの付加価値は、安さ。徹底したコスト削減をして、それを値引きで還元している。だから客がくる。
それに対して僕らの付加価値は、その時間、空間で心が豊かになること。その付加価値をつくっているのは、人です。それがすべてです。うちの店は20代のメンバーだけで星を守ってきていますが、彼らが働き続けられるだけの給料を払えるモデルをつくるために、サイゼリヤの考え方を取り入れる必要があります。
最後に、薄利多売のレストランチェーンであろうが、高サービス・高満足を追求するガストロノミー店であろうが、一人一人の売上に基づく生産性と、新たなサービスや顧客の期待値を超えるサービスの実現といったイノベーションこそが、レストラン経営を成り立たせるための必要条件と説きます。
レストランを成り立たせるには、一人当たりの売り上げをあげるファイナンスの頭と、料理やサービスの技術を向上させる・新しい驚きを与えていく頭、その両方が必要です。情熱を保ちながらその両方を彼らができるように、ちゃんと給料を払う。生産性をあげて労働時間を減らすことで、プライベートの時間も持ってもらう。仕事だけの人生じゃあ楽しくないですからね。
顧客体験と価格
実に、興味深い記事でした。
顧客体験の向上(customer experience management)の観点からは、顧客満足度や顧客関係の管理が重視されるわけですが、顧客満足度は期待価値と価格とのバランスが、顧客関係の管理は獲得(Aquisition)と維持(Retention)のバランスが重要です。
これらのバランスは価格が安ければ安いほど、顧客の側から見た利用(使用)の障壁が低いこととなり、高付加価値=高サービス・高品質だけの道ではないということに気付かされました。
生産性向上による低価格実現に向けた努力を疎かにして、高サービス・高品質だけを追求することは、えてして、顧客ニーズを見逃す危険もあります。
そんな基本を改めて再確認させてもらった良記事でした。
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