マキアヴェッリ先生言行録
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03 BOOK

真夏の夜のホラー小説:鈴木光司『リング』シリーズ

『リング』は単なるホラー作品ではなかった

かつて「貞子」のインパクトがありすぎて、かつ、ハリウッド映画への移植などにより、日本の代表的ホラー映画となった『リング』。

私も、映画で一度観て、かなり強烈な印象は受けたのですが、ホラー作品という印象からは抜け出ることがありませんでした。

しかし、最近『リング』の続編である『らせん』をふと読むきっかけがあり、「これは単なるホラー作品ではない!」と認識を改めたことから、原作小説『リング』『らせん』『ループ』『バースデイ』の合本版を購入し、一気読みしました。

 

ここから先はネタバレ含んでいるので注意!

呪いのビデオの正体=ウイルス

まず第一作目の『リング』で登場する「呪いのビデオ」。

『リング』はこの正体を追う過程で、超能力(念写)を有しながらも、不遇の死を迎えることになった山村貞子の存在を突き止め、そこに呪いを解除する方法を見出そうとします。

しかし、貞子の正体に迫るにつれて、ウイルスの存在を臭わせるような場面がちらほらでてきて、主人公である浅川とともに、呪いのビデオの正体を突き止める手伝いをする高山の台詞に重大なヒントが示されます。

「ウイルスはなあ、生命と非生命の境界線をさまよっているものなんだ。もとはといえば人間の細胞内の遺伝子だって説もあるくらいだ。どこでどう産まれてきたのかはわからない。ただ、生命の誕生とその進化に大きく係わっていることは確かだ」

 

「生命線と非生命との境界線」というフレーズで、福岡伸一『生物と無生物のあいだ』でも書かれていたウイルス、遺伝、そして生命の誕生との関係性が思い起こされました。

山村貞子が、その死の間際に、根絶されつつあった天然痘ウイルスに罹患したことによって、自らの念写能力を通じて、他人の遺伝子情報に天然痘と貞子のブレンドウイルス(=リングウイルス)が転写するという生き残り方策を獲得した、という仮説が本作品で確立されることになります。

 

「呪いのビデオ」は置き換え可能なツール

「呪いのビデオ」こそが問題の発端であり、「呪いのビデオ」をどうにかできれば問題が解決できる、というアプローチが有効であったのが一作目の『リング』。

しかし、続編『らせん』では、リングウイルスが突然変異し、ウイルスが自己増殖を図り、感染を拡大させるための媒介手段が、「呪いのビデオ」から、小説や映画、インターネットなどマルチメディア化することになります。

「呪いのビデオ」の役割は、視覚情報を通じて、他者の遺伝子情報を書き換えていくというものであったので、ビデオから得られる視覚情報と同等の内容であれば、例えば、映像の内容を文字で正確に書き起こした小説であっても、同様の効果を発揮されるということであり、これによってリングウイルスは爆発的感染のきっかけを得ます。

ウイルスが生き残るためには、現存する細胞の遺伝子情報を書き換えるだけでなく、それを将来的に増殖させていくプロセスが重要になりますが、リングウイルスが獲得した増殖方法は、リングウイルスに感染した女性による「出産」。

リングウイルスの70%は天然痘由来であり、残りの30%は山村貞子由来であったため、現世への復活を果たした貞子は、半陰陽者として完全な両性の生殖能力を持っており、自らの精子を自らの卵子に受精させることで、自分で自分のクローンを出産することができるというとんでもない存在になっています。

 

荒唐無稽な話をまとめ上げた世界観

貞子の復活は、完全にリアリティを逸脱しており、トンデモ話へと飛躍しつつある印象を持ちますが、その飛躍を論理的に解決するのが、筆者・鈴木光司の腕の見せ所。

第三作品目の『ループ』において、『リング』と『らせん』で描かれた世界や登場人物は、環境変化などをシミュレートする仮想現実世界であったことが判明します。

コンピューターによって精緻に構築された仮想現実世界で起こった、ウイルスの爆発的感染なので、『リング』『らせん』の世界の外にいる人間からすれば、リングウイルスとはすなわちコンピューター・ウイルスということになります。

仮想現実世界に生きる人間は、その世界こそが「本当の(リアルな)世界」と思い込んでいるが、実は、コンピューターによる電子情報に過ぎなかったという結論は、まるで映画『マトリックス』のようです。

『ループ』の世界は、コンピューターウイルスによって「貞子」で埋め尽くされた停止した仮想現実の世界であるわけです。

同様のテーマを扱いながらも、前作の作品の構図を自ら壊しながら、非科学的ホラーから医学的サスペンスへ、そこからさらにSF(科学的フィクション)へと、ジャンルを飛び越えていくという構想力は、小説を読んでこそ理解できる面白さだと思います。

 

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マキアヴェッリ先生
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