マキアヴェッリ先生の研究室
Openness, Fairness, and Transparency
02 Book Review(書評)

変わる者と変わらざる者

2週間連続のヒット作品

梅雨が明けて、夏も本格到来ということでアウトドアを満喫したいところですが、日中の気温が30℃を超える中では、熱中症の恐れもあるので、エアコンの効いた部屋で専ら読書を楽しむ日々を送っています。

そんな読書三昧の日々で、2週間連続で「読んでよかった!」と思える作品と出会えましたので、紹介したいと思いますが、ふと気付いてみれば、この2作品は方向性が完全に逆であり、好対照を為しています。

2冊を連続で読んだからこそ、様々な刺激や示唆を受けることができました。

 

変わるべき者の理想像:山口周『ニュータイプの時代』

ガンダムオタクであれば、タイトルだけで釣られるはず。

NEW TYPE(ニュータイプ)とは、『機動戦士ガンダム』の作者である富野由悠季が創り出した概念で、広大な宇宙空間の環境に適応し人類の中に出現する進化した人類で、拡大した認識力と深化した洞察力を持つ存在として描かれています。

本書の作者である山口氏は、第6章「ニュータイプのキャリア戦略:予定調和から偶有性へ」の中で、「殺しあうのがニュータイプじゃないでしょう?」というララァ・スンの言葉を取り上げているので、本書のタイトルである「ニュータイプ」をガンダムから借用したことは明らかです。

前置きが長くなったところで、山口氏は、従順で、論理的で、勤勉で,責任感の強い、という特質を有する人材は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて高く評価されてきたものの、これらの「望ましい」とされた思考・行動様式が、急速に時代遅れのものになる(=オールドタイプ)と予測しています。

これまでの資本主義の延長線上には多くの問題が横たわっていて、激しい変化の中にある社会構造やテクノロジーを踏まえると、オールドタイプの思考・行動様式では対応できないため、オールドタイプに対置される、自由で、直感的で、好奇心の強い人材(=ニュータイプ)にシフトしていく必要があると提言しています。

このようなオールドタイプからニュータイプへのシフトを駆動するメガトレンドとして、以下の6つの構造変化が挙げられています。

  1. 飽和するモノと枯渇する意味
  2. 問題の希少化と正解のコモディティ化
  3. クソ仕事の蔓延
  4. 社会のVUCA(Volatile:不安定、Uncertain:不確実、Complex:複雑、Ambiguous:曖昧)化
  5. スケールメリットの消失
  6. 寿命の伸長と事業の短命化

これらの変化が、世界中の各国・社会に発生しており、これまでの思考・行動様式では不適合が生じており、それに伴って、価値創造や競争戦略、思考法にキャリア戦略、マネジメントのあり方なども見直さざるを得ない状況に陥っていることが、現代的な課題であると認識させられます。

私自身も、これまで自分自身のスキル開発や学習に積極的に取り組んできたところですが、その発想がオールドタイプに近かったと反省する一方、筆者が、ニュータイプに必要な24の思考・行動様式を示しており、その半数近くを意識し、習慣づけていたので、その意味では「ニュータイプのなり損ない」くらいの評価になるのでしょうか。

いずれにしても、時代の変化に合わせた思考・行動様式が求められる時代になったと自覚を強くした1冊でした。

 

変われない者の哀愁:ダン・ライオンズ『スタートアップ・バブル:愚かな投資家と幼稚な起業家』

これに対して、変われない者の代表例として取り上げたいのが、大企業からIT系ベンチャー企業への転身を図ったジャーナリストが自らの体験記を綴った作品である『スタートアップ・バブル』です。

『Newsweek』誌の花形記者として、雑誌やブログの執筆だけでなく、多くの講演を手掛けるなど活躍していた筆者が、ある日、会社からの解雇通告を受けて、スタートアップ企業であるハブスポット社に再就職した顛末が書かれています。

筆者自身は、「マーケターになる」「IPOを成功させて、一攫千金を狙う」という野心満々で入社するのですが、意識高い系の若者によるカルト集団に近い企業文化や、画期的な技術も堅実な利益もなく、派手な宣伝とイメージ戦略がマーケティングの大部分を占めている実態などを目の当たりにして、「大人目線」から同社の虚業ぶりを辛辣かつ皮肉を込めて、批判的に描写しています。

このような筆者の姿勢に対しては、読み手である読者の価値観(労働観)によって、大きく評価が分かれると思います。

「かくあるべし」という規範論的立場からすれば、ハブスポット社が行っているビジネスなどは詐欺に近く、その印象は本書の「愚かな投資家と幼稚な起業家」という副題によって、否定的な印象が読者に刷り込まれることになります。

しかし、「現実はこうなんだ」という実証的立場からすれば、そのような怪しい経営が行われているスタート・アップ企業が大金を集め、経営者は億万長者になり、従業員もストックオプションで経済的恩恵を受けている、という現実があり、筆者もそのお零れに与ろうとしていたわけで、これが現代のビジネスの一つの仕組みなんだと考えれば、肯定的に受け止めることも可能になります。

筆者自身は、ジャーナリストとして一見「公平・公正」の観点から、ハブスポット社の様々な欠点を指摘するわけですが、見方によっては、オールドタイプの思考・行動様式で、ニュータイプの思考・行動様式をあげつらっているだけのように思います。

もし、筆者が指摘するような欠点(欠陥)がハブスポット社にあるのであれば、ユーザーから多くのクレームが寄せられたり、場合によっては、集団訴訟なども起こるはずですが、そんな事件が起きることもなく、利用料を支払って、サービスを受けているユーザーが存在し、現在も、企業として存続していることを考慮すると、筆者の言い分が一方的に正論であるとは思えません。

どれほど高尚な記事を書いても、読者が減って、ビジネスとして成立しなくなったためリストラされたことも現実であり、幼稚で低レベルなサービスであっても、そのサービスに対して対価を支払う顧客層が存在し、必要とされていることも現実。

その現実から目を背けて、規範的・道徳的立場から説教をされても、いまいち説得力がないと感じてしまいます。

 

どちらも正しい:多様なキャリア

私自身は、40歳過ぎのオッサン、かつ、ニュータイプのなり損ないなので、山口氏の『ニュータイプの時代』に共感も覚えるし、『スタートアップ・バブル』で今時の若者の働き方を胡散臭く思う50代のオジサンの気持ちもわかります。

大事なことは「どちらが正しい」という二者択一の選択をしないということ。

人間の数だけ価値観があり、その価値観に沿って働き方(キャリア)があるはずで、自分のキャリア観で、他者のキャリア観を批判はしたくないなと。

働くことは幸福な人生を送るための手段であり、要は、本人がその働き方でハッピーなのかどうかが大事なのだから、本人が幸せなのであれば、その働き方が最適なのだろうと。

変わってもいいし、変わらなくても良い。

でも、そこに信念や価値観がないと、愚痴や恨み言が多くなりそうなので、そういう生き方は止めたいなと思いました。

 

レビュー評価:

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ABOUT ME
マキアヴェッリ先生
フィールドサイエンティスト。 地方自治体、航空会社、デジタル企業とキャリアを重ねながら、地域課題・社会課題の解決につながるプロジェクトのマネジメントを推進中。 #PPP #PFI #価値共創 #地域創生 #カーボンニュートラル #サステナブル経営 #パーパス経営 #EBPM #ソーシャル・イノベーション