どんな話?
主人公の高槻涼は、普通の高校生として幼馴染みの赤木カツミと共に平和な日常を送っていました。
しかし、ある日、謎の秘密結社「エグリゴリ」が来襲し、自らの右腕に埋め込まれている兵器「ARMS」に気付きます。
そして、自分自身だけでなく、自分と同様の境遇である新宮隼人は左腕に、巴武士には両足に、久留間恵には両眼にそれぞれARMSが埋め込まれていることを知ります。
戦火に巻き込まれたはずの赤木カツミを探し出し、彼らの出生の秘密とARMSの移植理由を見出すため、彼ら4人は旅に出ます。
この旅を通じて、多くの仲間と出会い、別れ、時には闘い、そして失うことを繰り返しながら、出生の真実を乗り越えて、エグリゴリの陰謀へと接近していきます。
ここから先はネタバレ含みます
ここがすごい!その1:20年前にナノテクノロジーやAIなどの科学が行き着く未来を描く
ARMSとは何か。
それは、ナノマシン(厳密には金属生命体の細胞)の集合体であり、ナノマシンを統括する力を持ったARMSのコアを人間に移植、もしくは人間の体内でコアが生成されることで誕生しました。
宇宙から飛来した珪素生命体であるアザゼルは、意思を持つ隕石であり、人間の持つ「心」のメカニズムに惹かれていました。
そして、機械学習を通じて「心」を教えてくれたアリスが瀕死の重傷を追った際に、アリスの絶望をはじめとした感情を取り込んだことにより、4つのコアが誕生し、それらが高槻涼らに移植されました。
その珪素生命体であるアザゼルは、機械学習を経て、巨大なAIコンピューターに成長し、全世界の核防衛システムをハッキングする水準にまで到達した姿が描かれます。
本作品を読んでいた20年前は、遠い未来の話だと思っていましたが、ナノテクノロジーもAIも、現代のテクノロジーとして着々と実装が進んでいます。
決して荒唐無稽なトンデモ物語ではなかったことに感動を覚えます。
ここがすごい!その2:隠れたテーマは「人類の進化」
謎の秘密結社「エグリゴリ」が目指したものは何だったのか。
それは、人類の進化であり、ヒトラーが掲げた優生学を信じたキース・ホワイトは、アザゼルが人間と融合しようとした姿を見て、人類を新たな進化へと導こうと画策し、ARMS計画を主導します。
人類を強制的かつ計画的に進化させる計画であったため、超能力や薬物、サイボーグや洗脳など非人道的な実験によって兵器化された人間が多々登場します。
「遠からず人という種は、地球すら食い潰す…。人間は滅びなければならないのだ!すでにその時期はきている…。地球は…新しい”進化”を望んでいるのだ!!」という言葉に、キース・ホワイトがARMS計画を目指した目的と手段が示されています。
果たして、ARMS計画が結局どのような結末に至ったかが気になる方は、是非、本作品を読んでみてください。
ここがすごい!その3:『不思議の国のアリス』がモチーフ
ARMSにはそれぞれ名称が与えられています。
高槻亮ら4人に移植されたオリジナルARMSはジャバウォック、ナイト、ホワイトラビットに、クイーン・オブ・ハート。
そして、対するエグリゴリも、人為的な意思の介在しない純粋なコアに、制御用の人工知能(戦闘AI)をプログラムしたより実践的なアドバンストARMSにより迎え撃ちます。
アドバンストARMSは、グリフォンやマッドハッターにマーチ・ヘア、ハンプティ・ダンプティなどが登場し、まさに『不思議の国のアリス』です。
奇天烈な世界観を持つ童話が、大人が鑑賞するに耐えるエンタテインメント作品に昇華されています。
人類はけっしてARMSには負けない
オリジナルARMSを移植された4人の少年・少女の旅は、「過酷」という言葉を超えて、「絶望」に近い場面に度々遭遇します。
その絶望を切り抜けるためのキーワードは「意志」。
どれほど高度なテクノロジーであっても、どれほど困難なミッションであっても、結局、それらを使いこなし、乗り越えていくのは、強い意志を持った人間であることが強調されています。
「ヒトは絶望するから足を止めるんじゃない。絶望から這い出ることを”諦め”てしまったから足を止めるんだ。ヒトは希望があるから前に進むんじゃない。希望を探そうという”意志”で前に進むんだ。」
「人の意志こそがどんな強い運命にも打ち勝つ希望だと…。未来のありようを決めるのは、私達一人ひとりの選択だと…。」
「過去は変えられなくても…現在を命がけで戦う事で未来は勝ち取れる…。」
心が折れそうなときに、前に進むための勇気をもらうために是非手元に置いておきたい名作です。
レビュー評価:
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