マキアヴェッリ先生の研究室
Openness, Fairness, and Transparency
09 Column(コラム)

「観光」の定義を見直す

近畿日本ツーリストの挑戦

8月26日、近畿日本ツーリストで意欲的なツアー商品が販売されました。

それは「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風:黄金のイタリアツアー」。

同作品の舞台となっているナポリ・ポンペイ・ローマ・ヴェネツィアの4都市を、4泊6日ないし5泊7日で周遊するプランです。

ホームページで紹介されている行程表にも、ちょいちょい作品ネタを織り込んでいるので、ファンならずとも興味が惹かれるツアーとなっています。(→近畿日本ツーリストのホームページへ

ただ、毎年1回イタリアに個人旅行をしている私から見れば、行程やホテルのクラスだけで判断すれば、35〜40万円というツアー価格は高いように感じます。

しかし、コラボレーショングッズのプレゼントや現地でのアニメ鑑賞会というツアー特典が、ファンにとっては最大の付加価値であり、実際、募集定員35名に対して、募集開始後半日で完売という盛況ぶりでした。

 

旅行に疎遠な人へのインセンティブ

今回のツアーでひとつ証明されたことは、普段旅行しないような人間であっても、然るべきインセンティブを与えて、旅行しやすいような環境を整えてあげれば、旅行に出かけるということ。

最近、日本人の海外旅行離れが指摘されますが、そこには様々な要因が絡んでいるとは思うものの、マーケティング論で言えば、顧客のニーズやウォンツに十分アプローチできていない企業側の問題もあると思います。

今回の近畿日本ツーリストの企画が見事であった点は、『ジョジョの奇妙な冒険』のファンに訴求するようなコンテンツを用意して、さらに、パッケージ商品として気楽かつ気軽に参加できるツアーに仕立てたこと。

短時間でツアー完売したことを踏まえれば、このような漫画・アニメ・ゲームとコラボした旅行商品には、まだまだ潜在的なニーズがありそうです。

 

「観光」の再定義

最近、「観光」という言葉の定義に関するレポートをまとめました。

その中で、旧来の「観光」の概念ではカバーできないニーズを指摘しつつ、新たなニーズにも対応できる概念への拡張を提言しました。

 一般的な解釈として、「観光」とは「異郷において、よく知られているものを、ほんの少し一時的な楽しみとして売買するもの」(橋本和也[1999]『観光人類学の戦略:文化の売り方・売られ方』)と認識されています。

しかし、この定義によれば、「既に顕在化しているコンテンツ」「市場取引を通じた貨幣価値」が中心で、かえって「観光」が有するポテンシャルを狭めていると考えられるため、「観光」の概念を広げることによって、多くのビジネス機会を見出すことができるのではないかと考えます。

そこで、新たな定義として「観光」を「異郷における未知のものに触れ、体感し、理解することを通じて、異なる文化や価値観を有する人々との間で、新たな意味やストーリーを発掘し、交換、共有すること」と設定することで、新たな事業領域の可能性を見出していく必要があります。

経営戦略やマーケティング戦略を考えることも、もちろん大事ではあるのですが、それらの上位概念である事業ドメイン(=自社が事業展開する領域のこと)は一層重要であり、事業ドメインの設定を誤ったがゆえに、衰退事業に経営資源を投入し続け、新規事業に乗り遅れることもあります。

観光産業は、裾野の広い産業だからこそ、意外な分野から新たな競争相手が現れることもあったり、あるいは、自ら新規分野に乗り込んでいって市場開拓を図ることができたりと、様々な可能性があると考えます。

そのためには、単に経済価値に重点を置いた議論を展開するのではなく、歴史や文化・芸術などのコンテンツを理解し、共有できるコンテキストをどのように情報編集していくのかが、今後の観光産業に求められているのではないでしょうか。

 

レビュー評価:

[itemlink post_id=”994″]

ABOUT ME
マキアヴェッリ先生
フィールドサイエンティスト。 地方自治体、航空会社、デジタル企業とキャリアを重ねながら、地域課題・社会課題の解決につながるプロジェクトのマネジメントを推進中。 #PPP #PFI #価値共創 #地域創生 #カーボンニュートラル #サステナブル経営 #パーパス経営 #EBPM #ソーシャル・イノベーション