マキアヴェッリ先生の研究室
Openness, Fairness, and Transparency
01 Regional Revitalization(地域創生)

新型コロナウイルス対策補正予算への違和感

鹿児島県が22日に発表した、新型コロナウイルスによって疲弊した県内経済を立て直すための経済対策が、23日付けの南日本新聞で詳細に報道されました。

記事を読んだ直後の感想としては・・・、非常にわかりにくく、違和感がある、というものでした。

この違和感の原因を紐解いていくと、色々とあるのですが、一言で言えば「ひとつの目標(課題)に対してひとつの政策」というティンバーゲンの定理を無視して、一石二鳥や一石三鳥を目指そうという、政策遂行者にとって都合の良い政策を追求しようとしているから。

今回の政策で挙げられる欠点としては、今回のコロナ禍による経済の落ち込みは従来の不況とは違う要因によって引き起こされたものである、という認識が全くないという点にあります。

経済政策の内容を見てみると、①プレミアム付き商品券、②割引クーポン、③宿泊補助・タクシー利用助成、④観光体験や特産品プレゼント、など経済面からのインセンティブ(刺激)を与えて、需要喚起を行うものが中心です。

しかし、多くの県民が消費を躊躇しているのは、経済的不安を抱えているからではなく、コロナに感染するのではないか、という心理的不安を抱えているからです。

一番肝心なことは、この消費者の不安心理の払拭であり、そこに対するインサイトが完全に欠如したまま、前例踏襲のようなキャンペーンを展開しようとしていること自体が問題です。

実は、最近、県内の観光事業者の方々と議論したのですが、観光事業者はコロナ感染防止策の業界ガイドラインへの対応と新たなオペレーション下での収益体制の構築について深く悩むとともに、以前のように顧客が戻ってきてくれるか、という部分で深く悩んでいます。

正直言って、今回の政策は、それらの観光事業者の悩みにほとんど応えていない(裏返せば、現場のヒアリングや分析が不十分であることを意味)し、過去のキャンペーン事業を二番煎じで展開しても、十分な効果が挙げられないのではないかと、懸念しています。

この顧客心理の改善といった消費者マーケティングは、行政が最も苦手にするところで民間企業の様々なアイディアを意見を募集しながら、事業スキームを検討すべきとは思いますが、そのようなプロセスが取られた形跡はないので、顧客や現場から離れた県庁内で固まったものと認識しています。

コロナ感染防止策の徹底と消費者不安の払拭との間には、「安心・安全」に関するコミュニケーションが必要不可欠なのですが、「経済的にお得だから消費しましょう!」というメッセージで、実際の需要喚起につながるかと言えば、私自身は懐疑的です。

今回のコロナ禍によって、社会や産業構造が変化すると言われていますが、”withコロナ” や “afterコロナ”の政策は、その変化に対応した内容であるべきですが、残念ながら、今回の政策には、その部分に対する洞察や決意が見えません。

また、今回発表された緊急経済対策については、私のTwitterでも、次のような意見が寄せられています。

コメントのとおり、今回の政策目標は曖昧なように感じます。

これまで書いてきたとおり、「落ち込んだ需要の喚起」ということであれば、それは経済面だけのアプローチでは不十分だし、しかも、県内需要だけでなく、県外需要(観光客含む)も取り込まないと、当然のことながら、事業者が安定的に経営できる需要を確保できません。

また、コメント記載のとおり、現況の経済下では外食や旅行に行く余裕のある県民は、どちらかといえばコロナ禍で影響の少なかった人々であり、経済的な余裕をなくした多くの個人や家庭を置き去りにしている点では、公平性についても大いに議論の余地がありそうです。

更に言えば、緊急性を重視するのであれば、経営破綻の危機にある中小事業者に対して、直接的に運転資金の提供を行うべきですが、タイムラグがありそうな需要回復に合わせるという点について議論を呼び起こしそうです。

冒頭に書いたように、目標を曖昧にしたまま、八方美人的な政策を展開することで、結局のところ中途半端な結果がもたらされそうですが、鹿児島県議会での議論がどのように展開されるのか注視します。

 

ABOUT ME
マキアヴェッリ先生
フィールドサイエンティスト。 地方自治体、航空会社、デジタル企業とキャリアを重ねながら、地域課題・社会課題の解決につながるプロジェクトのマネジメントを推進中。 #PPP #PFI #価値共創 #地域創生 #カーボンニュートラル #サステナブル経営 #パーパス経営 #EBPM #ソーシャル・イノベーション