雑誌でふと見掛けて気になったので、鹿児島市内から自家用車にて約1時間半かけて辿り着いた人吉の山奥にあるフレンチレストラン「囲炉裏キュイジーヌLOOP」。
近くにはJR九州・肥薩線の大畑(おこば)駅があり、観光列車「いさぶろう・しんぺい」号が停車するとはいえ、普通列車を含めても1日3便という交通アクセスの悪い場所。
しかし、このフレンチレストランは平日でもなかなか予約が取りづらい人気店で、今回の私の訪問でも、2週間前に辛うじて13:30スタートで予約が取れました。
現地に辿り着いてみると、ひと味違ったデザイントラベルの可能性が見えてきました。
無人駅を地域コミュニティの中核施設に
現存する築100年以上の歴史を有する大畑駅。
「日本で唯一ループ線の中にスイッチバックを併せ持つ駅」という鉄道マニアの間では有名な駅らしいのですが、オンリーワンの物語を早速発見することができました。
そして、駅舎自体も歴史を感じさせる風格があるのですが、中に入ってみるとビックリ!
名刺が全ての壁面に貼られまくっています。
事態を理解できなかった私は早速Googleで調査。
どうやら個々の壁に「名刺を貼ると出世する」という逸話があり、この駅に立ち寄った方が貼っていくようです。
生憎、名刺を持ち合わせていなかったので、私自身は貼ることはしなかったのですが、知人を探してみたら、幾人が心当たりのある方の名刺が(笑)
観光列車「いさぶろう・しんぺい」号も、この駅で15分程度停車するため、乗客は一斉に降車。
無人駅なのですが、構内では地域住民の方が「大畑駅を愛する友の会売店」を運営しており、観光客との会話が弾んでいます。
住民の方々は、観光列車の見送りも行うのですが、無償のボランティアでは長続きが難しいと思われる中で、こうやって、地元の特産品販売も併せて行うことによって、持続可能な「おもてなし」が続きそうな気がします。
予約の取れないフレンチレストラン
今回の大畑駅訪問の本命である「囲炉裏キュイジーヌLOOP」。
大畑駅から徒歩1分で隣接した場所にあります。
しかし、店の看板と思しきものに「CLASSIC RAILWAY HOTEL 人吉球磨」と書いてあったので、当初は理解不能。
なぜなら、HOTELらしきものはどこにも見当たらないし、私が予約を入れたレストラン「囲炉裏キュイジーヌLOOP」はどうやらあの建物っぽいし、どこにホテルがあるんだと。
この謎についても、やっぱりGoogleが回答してくれました。
レストランの開設は「Classic Railway Hotel」プロジェクトの一環であり、ホテルは現在、開設に向けて着々と準備を進めているようです。
鉄道遺産と風情ある景観。この二つを組み合わせ「沿線全体を複合宿泊施設として再生させる」ことで、その土地の暮らしや原風景に触れながら、「宿泊」「飲食」「アクティビティ」を楽しむことができる新しい旅のかたちをつくる。→「Classic Railway Hotel」プロジェクト)
旧国鉄保線区詰所を改装した店内に入ってみると、窓のガラス越しに肥薩線の鉄道や深緑の森林を眺めることができる明るい店内とメインの肉料理を焼くための囲炉裏が印象的です。
ランチメニューは4種類のコース料理で、メインの肉は地鶏「天草大王」、「球磨の黒豚」、くまもと黒毛和牛「和王」などから選ぶというもの。
お値段は1800円〜と、料理の内容やクオリティの面から見ても、かなりリーズナブル。
予約の取れない人気フレンチたる理由がわかるような気がします。
- 季節野菜のパフェ
- もち麦と生ハムのサラダ
- つぼん汁
- 黒毛和牛と黒豚のフレンチバーベーキュー
4種類のメニュー(食後のコーヒー付き)でもかなり満腹気味なのですが、食後のデザートにフルーツパフェも追加オーダー。
頻繁に足を運ぶことができないレストランだからこそ色々なメニューを楽しんでおきたいという欲望が、「食べ過ぎじゃないか?」「糖分摂り過ぎじゃないか?」という自制心を凌駕しました。
「地の利」は関係あらず
昔であれば、地域振興において「地の利」というのは極めて重要なファクターであったとは思うのですが、一人ひとりが情報発信手段を持ち、自家用車などの移動手段を持つ現代では、かつてほど決定的なファクターにはなり得ません。
むしろ、「情報過多」「モノ余り」の時代だからこそ、自然・体験・景観などの稀少価値が消費者に突き刺さるのないのでしょうか。
この「CLASSIC RAILWAY HOTEL 」プロジェクトはまだまだ進化中で、今年8月には大畑駅の隣「矢岳駅」に、国登録有形文化財である旧国鉄矢岳駅長官舎と離れの古民家をリノベーションした宿泊施設が誕生するようです。 → CLASSIC RAILWAY HOTEL 人吉球磨
鹿児島にも自然発生的に同様の動きが見られるようになっているのですが、このプロジェクトの場合は、デザイナーが中心となって、クラウドファンディングを活用し、地域住民との連携も図るなど、かなり「戦略的」に動いている印象を受けます。
まだまだ発展可能性のあるプロジェクトなので、ホテルが完成したら、また訪れてみたいと思います。