マキアヴェッリ先生言行録
Openness, Fairness, and Transparency
03 BOOK

オーバーツーリズムとインバウンド観光の可能性

オーバーツーリズムという新たな現実

アレックス・カー、清野由美『観光亡国論』(中公新書クラレ)のタイトルに書かれた「観光亡国」という言葉―。

なかなか刺激的で、私のようにインバウンド振興に尽力してきた者にとっては、心穏やかではなくさせるものがあります。

しかし、本書を精読してみると、決してインバウンドを否定しているわけではなく、むしろ「日本経済を救うパワーを持って」いると、希望さえ見出しています。

本書では、観光施策の行き過ぎによるオーバーツーリズムの弊害に警鐘を鳴らしつつ、その対応策を示しています。

本書のポイント

適切な「マネージメント」と「コントロール」を行って、「量」ではなく「価値」を極めることを最大限に追求すべし

 

 観光産業が迎えたティッピング・ポイント

中国人観光客だけでも、既に世界の観光産業が大きく影響を受けている中で、今後も経済発展が見込まれるインドや中近東、南米、その他の各国・各地域からの観光客が加われば、観光産業は桁違いの産業に発展することが見込まれます。

そのような動きの中で、問題になっているのが「観光投機」。

本書では、京都における無計画な乱開発の現状に対して強い危機感を示すとともに、全国一律あるいは行政区域一律の法律や条例、規制による対策の限界も示しています。

宿泊ニーズの増加にまつわる急速な観光投機への対策を最後にまとめるなら、国による「法律」とローカルの「条例」の使い分けやマネージメントが不可欠で、その上で「規制強化」と「規制緩和」のバランスが重要、ということになるでしょう。

 

また、「みんなに見せてやろう」という役所的な平等主義的発想から、入場料を観光地の価値に見合った価格に設定できなかったり、予約制度がなかったりすると、かえって、その価値を評価し、大事にする顧客が遠ざかってしまう問題点も、現在の観光行政や観光施策に欠如している視点だと考えます。

それ以外にも、観光行政に携わる者として肝に銘じておかなければならない(逆に言えば耳が痛い)指摘も多数あります。

  • 「公共工事」の定義について、コンクリートを使った道路や護岸、ハコモノ建設といったこれまでの認識から離れ、電線埋設や不用なダムの撤去、そして古い町並みや古民家の再生にまで広げる。
  • カンバンの数を減らす。カンバンの位置を検討する。デザインに配慮する。
  • 歴史的な文化や文化財を扱う場で、「マスコットキャラ」や「ゆるキャラ」など観光客向けに安っぽいものを提供する、文化の「稚拙化」を行うのではなく、最高なものを親切な形で提供して、文化のレベルアップを果たす。

本書で筆者が最も訴えたかったことは、インバウンドのブームに流されることなく、地域が主体性と責任をもって、観光地のあり方を決定していくべきということだと思います。

今の時代に力を持つのは、旅行代理店に代表される「エージェント」ではなく、「コンテンツホルダー」です。景観や文化というコンテンツを持つ日本の地方は、その点においてまさしくコンテンツホルダーであり、エージェントに負けてはいけない。一方でエージェントも大事な役割を果たしていますので、彼らにも理解を求め、関係者たちが手をつないで観光の新しい形を一緒に作ればいいと思います。そのような努力を放棄し、自分たちの文化に誇りを持たず、目先の利益で貴重なコンテンツと大事な資源を破壊してしまうことが続けば、それこそが「観光亡国」です。

 

 自己決定権を持った地域観光の育成

筆者は、効率やスピードを重視せず、のんびり人生を楽しみ、生活の質を高めようとする「スローシティ」や、農場、農村で休暇・余暇を過ごす「アグリツーリズモ」といった新しい旅の概念を発明した国・イタリアで起こりつつある新たな仕組みに着目しています。

それが、アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)

アルベルゴ・ディフーゾとは「分散したホテル」の訳で、地方の小村を舞台に、複数の空き家を宿泊用の「部屋」に改修し、それらが集まることで、全体で一つのホテルとして機能させる形態のこと。そこでは点在する「部屋」とは別に、レセプションやレストラン、朝食用バール、土産品店なども村内に点在させて、旅行者は村に住む人々に交じって、村全体を一つのホテルのように使うことができる。

人口減少と過疎化、空き家問題という地方の課題を観光的アプローチで解決しようとする仕組みで、同様の問題を抱える日本の地方にも適用できそうな解決策です。

小さな町や村の出身者や住民など、地域にゆかりのある人たちが空き家活用を出発点に、地域性を保ちながら、地域の持続可能性を高めていくことができる、というメリットがあります。

かつて日本の製造業が発展する過程において大気汚染や水質汚濁などの公害が社会問題化したように、観光産業も、まさにその過程を歩んでいる途上にあるといえます。

大事なことは負の側面ばかりを見て、観光産業の可能性を潰すのでははく、適切なマネジメントとコントロールに持続可能な産業として発展させるレールを敷いてあげることだと思います。

そのためには、先進事例を学びつつ、ベストプラクティスを貪欲に取り入れながら、各地域が主体的かつ自立的な観光地作りを目指すべきだと考えます。

 

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マキアヴェッリ先生
Director of Business Strategy Department. #イタリア好き #Apple信者 #経済学修士 #スローシティ伝道師 #空港おじさん #ガンダムおじさん #薩摩藩脱藩浪人