マキアヴェッリ先生言行録
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03 Book Review(書評)

井上達彦[2014]『ブラックスワンの経営学』

ブラックスワンとは何か

文芸評論家のナシーム・ニコラス・タレブが、「ありえない」ことをブラック・スワン(黒い白鳥)に喩えました。そのありえないことは、不確実性やランダム性からも生じるものもあれば、単に知識や技術水準の未熟さに起因する未実証なものも存在します。

このうち、後者の「知識や技術水準の未熟さに起因する未実証なもの」について、筆者は学術研究者が発見すべきブラックスワンとして注目し、「『ありえない』を開拓する」「専門家の中では既知の事実でも、一般の人が『ありえない』と思っていることがあれば、積極的にそれを広める」ことを、学術研究者の使命として掲げます。

経済学者ガルブレイスが指摘するように、我々は、広く受け入れられやすくそれゆえに時代 を支配している思想(=通念)によって思考や見方が制限されがちです。

ブラックスワンを見つけることは、この通念を打破し、新たな思考や見方を構築することであり、また、既知のものを未知化するという創造的活動につなげることもできると考えます。

 

ブラックスワンの探し方:事例研究

このようなブラックスワンを探し出す方法として筆者は、統計学を用いた「仮説検証型」ではなく、特定の企業、個人、製品などに個別の事例から得られる示唆を探求する事例研究の有効性を主張します。

通説を覆したり、将来を類推するのに、統計学的研究にはない事例研究の利点として以下の3つを挙げます。

  1. 人間の知性を活発にする力(思考力や観察力との親和性)
  2. 複雑な現象に対応する力(因果関係を読み解く力)
  3. 「アナロジー・ベース」で将来を切り開く力(前例か少なくても有効な仮説を導く)

事例研究を通じて涵養される力というのは、以前の記事で紹介した「自由で、直感的で、好奇心の強い人材(=ニュータイプ)」の特徴にも相通ずる要素があるような気がします。(→「変わる者と変わらざる者」参照)

そして、このような事例研究のベスト・プラクティスとして、世界で最も権威のあるマネジメントの学会から発刊されている学会誌 “Academy of Management Journal” の最優秀論文賞を取り上げて、通説とは異なる見解を提示したり、対立する見解を統合させたり、意外な実態を明らかにしたり、不思議の発生メカニズムを解明するなどの内容を解説したのが本書です。

学術研究者だけでなく、事業企画やアイディア創出などを主要業務とするビジネスマンにとっても、洞察を深め、直感を磨く上で、事例研究は大いに役立ちそうです。

 

調査方法(アプローチ)が重要

ブラックスワンは、通説・通念から懸け離れた、時には、全く正反対の結論が提示されることもあり、まずは「ありえない!」という反応が大いに予想されます。

このような懐疑的思考を持つ人々を納得させるためには、それを証明するための調査方法(アプローチ)が合理的かつ再現可能性の高いものでなければなりません。

本書で紹介されている複数の事例研究は、その研究によって明らかにされた内容が意外性に富んでいるのだけでなく、その調査方法が緻密であることが特徴的であるといえます。

我々凡人は、えてして安易な結論に飛びつきがちですが、ブラックスワンを見つけるためには、そこで踏ん張って、論理の飛躍やデータの恣意的解釈がないかを多角的な視点で検証できるかが、大きなポイントになりそうです。

 

人間は機械やAIに負けない

テクノロジーの進歩が急速すぎるがゆえに、これまで人間が行ってきた作業が機械やAIに取って代わられるのではないか、という漠然とした不安感が漂っています。

しかし、『AI VS.教科書が読めない子どもたち』によれば、機械やAIが人間の能力を超える技術的特異点(シンギュラリティ)に到達するのはまだまだ先(妄想)のようだし、今回のように既知のものを未知化して、新たな発見や可能性に気づくというのは、やはり人間の醍醐味なのかなあと。

ただし、同時に、思考や判断を伴わない単純作業については、既に機械やAIが人間の能力を凌駕する水準に到達しているのも現実です。

情報革命の時代に生きる我々は、その技術的恩恵を受けながら、新たなブラックスワンを見つける機会が与えられると同時に、絶えず重圧をかけられ続けているような気がします。

 

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