マキアヴェッリ先生の研究室
Openness, Fairness, and Transparency
02 Book Review(書評)

2020年行く年来る年②:心を支えた一冊

今年の4〜6月の期間、COVID-19の感染拡大により、未曾有の緊急事態宣言による自宅待機措置が発せられ、人の移動を支える業種であるが故に、将来展望が不透明な時期を経験しました。

日常生活でも、仕事でも大きな変化だったので、転職をしてまだ半年にも及ばない私にとっては、行動できる範囲が極端に狭まり、社内の人間関係も十分に構築している状況でもなかったので、独りで多くの物事を考える時期でした。

私の興味・関心事項としては、「コロナ禍の影響が短期的なものなのか、それとも、中長期的なものなのか」ということから、「この経験を経て、人間社会や経済にはどのような変化が生じるのか」ということまで、BBCやCNNのニュースを観たり、あるいは、「人類の叡智」と称される有識者の書物や記事を読んだりと、自らの立ち位置を模索していた時期でした。

そんな時期にあって、自社社員や異業種の他社社員らの不安を訴える声というものが、私にとっては非常に精神を不安定にさせました。

元々、「座して死を待つくらいなら打って出るべし」「死中に活を求める」性格と生き様をしてきているので、仕事でコミュニケーションを取らざるを得ないにしても、ストレスを感じました。

ただでさえ、自宅に引き籠もりがちで没コミュニケーションになりがちだったので、そういう時に、負のエネルギーを溜め込むようなことは精神衛生上もよろしくないだろうと。

不安を吐露しても構わないとは思いますが、不安を吐露した後は、次に「ではどうするか?」を考え抜くことが大事ではないかと思います。

私は、「顧客の移動需要や購買行動の変化を見通した上で、会社事業をどうしていくか」ということを、上司も交えて、日々、真剣なディスカッションしていて、不安になる余裕があまりなかったので、余計に違和感を覚えました。

不安を覚えている周囲の人間の姿勢や態度が正解で、不安を意識せずにひたすら「今やるべきこと」「将来に備えておくこと」を考えている自分が、実は不正解なのではないか、と思える時期もありました。

そんな葛藤を抱えていた時期に、改めて読み直そうと手に取ったのが塩野七生『海の都の物語:ヴェネツィア共和国一千年史』でした。

この書物は、これまで2回読んだことがあり、かつては、1000年という建国期間を生き長らえたヴェネツィア共和国の統治機構(政治システム)への興味関心が中心だったのですが、今回のコロナ禍では、度々の危機を乗り越えるに当たって、統治機構の変革、外交方針や貿易ルートの見直しなどの外部環境変化への対応をリードした人間に対して焦点を当てた読み方をしてみました。

自給自足が不可能なうえに人口も少なく、国民の頭脳と意志だけが資源のようなヴェネツィア共和国の歴史は、まったく、ありとあらゆる試練への対処の仕方の歴史のようである。

 

この短い100文字足らずの文章に、人口の少ない都市国家が、人口では遙かに及ばない大国と互角以上の関係を維持しながら、随一の経済的繁栄を築くことができた秘訣が表現されています。

ヴェネツィア共和国は、その歴史の中で、手強いライヴァルとなる都市国家が出てきたり、あるいは、周辺国家の連合により滅亡の危機に瀕したり、更には、地中海貿易から太平洋貿易へという大きな経済・貿易構造の変化に見舞われたりと、度重なる危機を経験しています。

もちろん、その時々の判断が常に望ましい結果をもたらしたわけではなく、手痛い失敗も少なからずあります。

だけど、そんな失敗を巻き返し、大きな成功へと導くことができた要因については、私はこう考えます。

正確な情報を入手し、公開あるいは秘密裏の議論と冷静な分析による情報の精査を行い、一度決定したら断固として実行するという、決断と行動の徹底

この「決断と行動」を支えているのが、苦労や負担を背負う覚悟と責任を引き受ける主体的な精神にあると考えます。

不安を吐露するしかない人々を話してみると、

  • 会社命令に唯々諾々と従い、会社からの指示を待っている
  • 現状ではどうしようもないので、様子見をしつつ、嵐が過ぎ去るのを待つ
  • 会社の業績改善はマネジメント層が考えることで、自分とは無関係であり、権利を主張する

と、無責任で思考停止に陥っているようにしか見えないのです。

どんなに外部環境の変化のせいにしようと、自らが所属する組織(コミュニティ)の無能や無為無策ぶりをあげつらおうと、それは自分自身の境遇や立場を変化させることには一寸の寄与もしないという認識が全くないことの方が、私には奇異に見えます。

豊かな時代や国家を経験した人間は、危機に際しての自らの立ち居振る舞いさえ忘れてしまうものなのかと感じる面もあります。

成功するか失敗するかわからない、それどこか、生き残るか滅ぶかすらわからない。

そんな時に何を考え、どのように行動すべきかを考えることができた一冊でした。

 

レビュー評価:

[itemlink post_id=”2036″]

[itemlink post_id=”2037″]

ABOUT ME
マキアヴェッリ先生
フィールドサイエンティスト。 地方自治体、航空会社、デジタル企業とキャリアを重ねながら、地域課題・社会課題の解決につながるプロジェクトのマネジメントを推進中。 #PPP #PFI #価値共創 #地域創生 #カーボンニュートラル #サステナブル経営 #パーパス経営 #EBPM #ソーシャル・イノベーション