マキアヴェッリ先生の研究室
Openness, Fairness, and Transparency
07 Business Leader(プロフェッショナル・リーダー)

ユニコーン企業への成長

DHBR2022年1月掲載の論文「タンパク質を進化させ、素材革命を起こし、持続可能な未来を創造する」

人工合成クモ糸繊維の開発と商用化に向けた紆余曲折を創業者(Spiber社)自らが振り返る内容で、多くの示唆に富んだ記事でした。

「とにかく世の中に巨大なインパクトを生み出せそうなテーマ」を求め、「アイデアのレベルまで含めると数百のテーマを検討」し、「そもそも数年で成果が上がるようなテーマであれば誰かが既に成功しているので、それでは社会に大きなインパクトは与えられない。誰にもできてないからこそ、成功した時に価値を生むことはできる」など、入念にパーパスやミッション策定に取り組んだことを理解しました。

自分も「地域創生」を掲げるならば、すぐに結果の出る安易なアプローチではなく、地域社会にインパクトのある施策や戦略を講じるべきと、自らの仕事を省みる機会ともなりました。

技術シーズから始まったプロジェクトであっても、「それぞれの手法が最もうまくいった場合、タンパク質の製造コストをどの程度までさげられうるかを、さまざまな過程を置いて試算」「実用化を目指すうえでは、とにかく生産性とコストの問題をクリア」と、常にコストと生産性を追求することが商用化の肝であったことがわかります。

また、資金繰りに苦しんだ際にも、「いつ量産できるのか、そもそも量産できるかどうかもわからないハイリスクな状況にもかかわらず、投資家やパートナー企業に私たちのビジョンや目的を理解し、強く共感していただけた」ことにより、資金難を乗り越えたエピソードが書かれています。

ここでも、パーパスやミッション策定が、ステークホルダーからの強力な支援につながり、創業者(経営者)の溢れる想いと熱い情熱が、事業が危機に陥った時に乗り越える要素であることがわかります。

この論文で、強く共感を覚えたのは、筆者であり、創業者でもある関山和秀氏の社会への価値還元に対する思考と姿勢。

  • 組織や社会というコミュニティの構成員が、有機的に連携しながら各自の役割を果たすことで、コミュニティの中で幸せに生きれる人が増え、それはコミュニティの一員である自分の幸せとして還元されるからだ。
  • このように一人ひとりの幸せのサステナビリティを中心に据えた経営や社会システムこそ、いまの世の中に求められているのではないか。
  • 限られた資源を有効活用するために、あらゆる物事を長期的な視点で捉え、コミュニティにおける資源配分のあり方を模索し続けなければならない。

このような哲学の下に、Spiber社で取り組んでいる面白い給与制度として、自分の給与をみずから決定し、その思考プロセスと金額を社内に公開し、それに対して、会社は各自が決めた給与を満額支払うという制度が紹介されています。

これによって、給与や労働そのものに対する自らの期待・評価・自己実現など内発的動機を深く掘り下げるきっかけになり、自分自身のキャリアにとっても重要な取組になると考えました。

一人の人間の問題意識や情熱から始まったプロジェクトが、多くの人を巻き込みながら、ユニコーン企業へと成長していくプロセスは、日々の業務をルーティンで回すだけに陥っている私にとっても刺激的な内容でした。

ABOUT ME
マキアヴェッリ先生
フィールドサイエンティスト。 地方自治体、航空会社、デジタル企業とキャリアを重ねながら、地域課題・社会課題の解決につながるプロジェクトのマネジメントを推進中。 #PPP #PFI #価値共創 #地域創生 #カーボンニュートラル #サステナブル経営 #パーパス経営 #EBPM #ソーシャル・イノベーション